音源の圧縮について見直す(2020年版)

音源の圧縮形式、もうすでに手垢のついたトピックだとは思いますが、9年前の記事がいまだに読まれているので、2020年時点での僕の見解を綴ります。

今回はMP3圧縮の中で最も高音質になると言われている、Exact Audio Copyをベースにした、LAMEによるエンコードを導入した。...

今現在でもMP3のCBR320kbpsやVBR-V 0(平均260kbps)で音源を圧縮している人は多いのでは?次点でAACやApple Lossless(ALAC)、マニアならFLAC、容量を気にせず音質に拘る人やプロであれば無圧縮のWAVといったところでしょうか。そもそもストリーミング再生の時代なので、自分で圧縮する人自体は減っていそうですが。

それでは、改めて考えてみましょう。

そもそも音質の良い/悪いの基準は?

デジタルデータの音質については、”サンプリング周波数”や”量子化ビット数”といった数値が大きく関わってきます。「サンプリング周波数×量子化ビット数×2=ビットレート」という数式があり、今回はこの“ビットレート”という数値を用いて話をします。

ビットレートとは「1秒間に送受信できるデータ量」のことです。ざっくり言うと、このビットレートの数値が半分になると、表現できるデータ量も半分になるので、音質も半分まで落ちるというイメージです。

ちなみにCDに収録されている音源のビットレートは1411kpbs、これを無圧縮でリッピングすると1411kpbsのWAVファイルが吐き出されます。ここではこの数値が最大の高音質だということで話を進めていくことにします。

と前置きをするのも、今ってハイレゾ音源がありますよね?あれビットレートが9000くらいあって、当然今現在の最高音質なんですけども、圧縮して聴くことを前提にしていません。なのでこの記事では省かせてもらいます。

MP3について

MP3とは世の中に最も普及している圧縮形式の一つで、汎用性も高く、殆どの再生機器、ソフトウェアに対応しています。この形式に圧縮しておけばとりあえずどんな状況にも対応できるはずです。

MP3は圧縮の際にビットレート(32kbps~320kbps)を設定することができ、この数字が低いほど圧縮率が上がり音質は悪く、高いほど圧縮率は落ちますが高音質になります。

さらに同じMP3でも、CBRVBRという2種類の圧縮形式があります。

まずCBRは、ビットレートを一定に保ちつつ圧縮する方法で、楽曲の最初から最後まで指定したビットレートで圧縮してくれます。最も基本的な圧縮形式で、配信で販売されているMP3は大体このタイプになります。

次にVBRは可変ビットレートと呼ばれ、シーンによってビットレートを変えながら圧縮する方法で、例えば無音の時はビットレートをゴリゴリに削って圧縮率を高めたりすることにより、CBRよりも軽量なファイルができるのが特徴です。ただしデメリットとして、ソフトウェア、ハードウェアによっては再生時間がバグる、シークバーが使えない、などがあります。

ネットでは「CBRよりもVBRの方が音質がいい」と言う情報が散見されますが、これはあくまでVBRのファイルサイズ、平均ビットレートがCBRと同等以上である場合に限られます。一般的なMP3のVBRは高音質でも200kbps~320kbpsのふり幅でしかエンコードされないので、320kbpsのCBRよりも音質が良くなるということはまずありません。

音楽の圧縮においてのVBRの意義は、ある程度の高音質は保ちつつもストレージの容量を節約したい、というところにあると僕は認識してます。しかし容量を気にするのもひと昔の話で、今はハードディスクの容量も大きく増えている為、数百KB、数MBを節約するような運用はあまり想定できません。

例えば、VBRにすることで1曲当たり1MB軽くなるとします。1万曲を所持していたとして節約できるのは10GB。この10GB差を大きいと感じるか小さいと感じるかは個人差がありますが、1万曲もの楽曲を所持しているようなコレクターの方は、最初からそれなりの容量のストレージを用意しているはずなので、そこまで気にするような数字ではないと思います。

といいつつ私も、今現在もMP3のVBRを採用しています。最初からCBR320kbpsにしておけばよかった、という後悔を抱えながら…。

FLACとは?Apple Lossless(ALAC)とは?

どちらも音質を劣化させず圧縮できる形式です。しかも圧縮に対して可逆性があるので、一度FLACやALACに圧縮したファイルを、元通りのWAVファイルに劣化なく戻せるという特徴があります。いいことづくめではありませんか。

というわけでもなく、やはり音質の劣化がない分圧縮率は低く50%~60%前後、半分くらいのサイズにしかなりません。さらに汎用性に関しても、今こそ対応ソフトウェアはかなり増えているので再生・編集くらいなら問題はないのでしょうが、新旧様々なソフトウェアやハードウェアで音源ファイルを扱う機会があるような人は、ちょっと気を付けなければならないかもしれません。

HDDの容量を気にしない、再生しかしない、という人にはこの辺りがベスト。DJ用のソフトウェアも大体は対応しているようですが、OSや使用ソフト/ハードのバージョンなど、環境によっては再生できないこともあるみたいなので注意が必要です。

参考リンク : TRAKTORバージョン2.7.0以降でApple Lossless (ALAC)が再生できない (Windows 7 / 8)

AACとWMAについては書かないの?

AACとWMAですが、こちらはMP3と同じく不可逆圧縮形式です。特徴もほとんどMP3と同じで、圧縮のアルゴリズムがそれぞれ違うのと、AACはApple(iPhone、iPadなど)の標準規格、WMAはMicrosoft(Windows)での標準規格になっています。要は各社が自前でMP3のような圧縮技術を用意している感じです。

それぞれの音質の違いですが、正直な話、同一ビットレートであれば私には区別がつきませんでした。

しかし、工房AOKさんの検証(MP3 vs WMA 徹底比較!)によると、低ビットレートではWMA、高ビットレートだとMP3が音質が良いという結果が。

そして数年前に、MP3の開発者が「もうAACの方が高音質だし、MP3やめるね!」といった声明を出しています。
参考リンク:MP3、正式に終了のお知らせ (ギズモード・ジャパン)

このことから音質は一般的に「AAC>MP3>WMA」だと言われています。

ということは不可逆圧縮の中ではAACが一番優秀なのでは?しかしながら、やはり汎用性の面ではどちらもMP3には敵いません。

現に私が使用しているDJソフト「Traktor」では、AAC対応のWMAは非対応、作曲ソフト「Studio One」では最近になってやっとAACに対応しましたが、WMAは非対応のままという状況です。こうしてみるとAACはまだシェアの拡大が期待できそうですが、WMAはどうにも不憫でなりません。WMAに未来はあるのでしょうか。

音質を取るか汎用性を取るか、AACを選ぶかMP3を選ぶか。ユーザーによって選択が変わってくると思います。僕は汎用性を重視しMP3を採用しています。

結局どの圧縮形式がいいの?

これまでの私は、マスターデータとしてCD(最高音質)が手元にあるから、PCでは非可逆性のMP3でいいや、という考えでした。高音質が欲しければその時にまたリッピングすればいい、という考えです。しかしその考え方も最近は変わってきています。ここ数年での音楽流通の変化、すなわちデータ配信の台頭です。

例えば配信サイトのOTOTOYでは主に、WAV、ALAC(Apple Lossless)、FLAC、MP3の4種類のファイル形式で楽曲を配信しています。しかも価格はどの形式でも同じ設定です。価格が同じであるならわざわざ圧縮してある音源を買う必要はなく、迷わずWAV…と言いたいところですがちょっと待ってください。

もちろんその選択は正解ではあります。しかしWAVファイルにはタグを付与することができず、iTunesなどのソフトに取り込んだ時に曲名やアーティスト名が表示されません。多くの方はWAVを自分でmp3なりALACなりにエンコードしてタグを打ち、iTunesに入れるという作業をしていると思います。しかしこれ、結構手間がかかって面倒くさいんです。

ALAC、FLAC、MP3を購入していれば、最初からタグも打ってありますしアートワークも登録されています。圧縮する必要もないので、ダウンロードしたらそのまますぐに聴くことができます。めっちゃ楽。さらにALACとFLACに関しては圧縮に可逆性があるので、いつでも無圧縮のWAVに戻すことが出来ます。必要とあれば軽量なMP3に変換することもできます(もちろん劣化はしますが)。

という理由から、ダウンロード購入に関してはALAC、FLACという選択がベストだと思います。レンタルしたCDなどマスターデータが手元に残らない場合も同じくALAC、FLACでアーカイブしておくと後々後悔することがないでしょう。

圧縮ソフトは何を使ってる?

以前は昔の記事の通り、WindowsにてExact Audio Copyを使ってリッピングしていましたが、今はMac専用のX Lossless Decoderに切り替えています。

X Lossless Decoder
最終更新は2019/10/4、macOS Catalinaに対応

この記事で取り上げたFLACやApple Lossless、MP3はもちろん、Monkey’s Audio (.ape)、Wavpack (.wv)、TTA (.tta)、TAK (.tak)、Shorten (.shn)といった、フリーウェアでありながらも様々な形式にも対応しています。CDからのリッピングだけではなく、ファイルの変換にも使えるので、MacユーザーであればX Lossless Decoderは入れておいて損はありません。

詳しいインストール方法、設定方法は下記サイトにあるPDFをご参照ください。わかりやすく書いてあります。

参考リンク:RATOC Audio Lab (ページ下部にリンクがあります)

まとめ

・CD(オリジナルデータ)を持っている
・マスターデータの保持にこだわらない
MP3
・少しでも容量を節約したいMP3/VBR(平均260kbps)
・配信で購入する形式
・レンタルCDのリッピング
ALAC(Apple Lossless)
FLAC
・DJソフトを使用している
・作曲ソフト(DAW)を使用している
WAV(無圧縮)、MP3
ALAC(Apple Lossless)
FLAC

正直に言うと私もApple Losslessで統一したいのですが、やはりDJソフトやDAWなど、音源ファイルを様々なソフトウェアで使う身としては踏み切れません。現時点ではまだしばらくはMP3が安泰のようです。世界で大きな改革が起きるまではMP3を使っていこうと思います。

シェアする

フォローする